2025年8月5日火曜日

新種のヒメドロムシを岐阜から発見!ギフヒメツヤドロムシ Zaitzeviaria gifu Hayashi, Nagano & Kamite, 2025

 岐阜で採集されたZaitzeviariaをギフヒメツヤドロムシ Zaitzeviaria gifu Hayashi, Nagano & Kamite, 2025 として記載しました!!!

Hayashi, M., Nagano, H. & Kamite, Y. (2025) A New Species of Zaitzeviaria from Gifu Prefecture, Honshu, Japan (Coleoptera: Elmidae). Japanese Journal of Systematic Entomology, 31 (1): 85–89. LINK

ギフヒメツヤドロムシです!!!


タイプ産地の環境


新種記載に関わるのはナギサミズカメムシに続いて2度目ですが、共著のお二方におんぶにだっことはいえ記載者になるのは初めてなので非常に嬉しいです。

本種は、外見や大きさはホソヒメツヤドロムシとそっくりですが、オス交尾器内部の骨片がホソヒメツヤと比較してかなり太く発達することがもっとも顕著な特徴です。この骨片は内袋反転せずとも確認可能です。生息環境は、丘陵地周辺の細流といった感じです。


さて、せっかくなので発見時のエピソードなど紹介していきたいと思います。

本種を初めて採集したのは2024年8月のことでした。帰省の折に愛知と兵庫からのみ記録のあるトウカイヒメツヤドロムシを地元岐阜で出してやろうと丘陵湿地付近の細流に狙いを定めてヒメドロ採集をしていたところ、見慣れないヒメドロムシが網に入りました。第一印象としては「なんかでかめのZaitzeviaria!トウカイか?でも写真で見た感じとは印象違うよな...。」といった感じでした。自分の見慣れたZaitzeviariaではなかったので、ひとまず岐阜で精力的に水生昆虫を採集されていてヒメドロムシに詳しいKamiteさんに「トウカイかもしれないやつが採れたんですが...」とご相談したところ、Hayashiさんに聞いてみるのが良いのではとご返信いただき、Hayashiさんにご連絡することになりました。オス交尾器の写真とともにHayashiさんにご連絡したところ、ホソヒメツヤドロムシに交尾器は似ているとのご意見をいただき、11月に再サンプリングしてお送りすることとなりました。

11月にKamiteさんとサンプリングを行い、Hayashiさんに検討していただいたところ、「体長はやや大きいが、ホソヒメツヤドロムシの範疇なので、ホソヒメツヤドロムシではないか。」とご連絡いただきました。自分が採集したことのあるホソヒメツヤドロムシは、かなり小さい個体ばかりだったので、「なるほど、ホソヒメツヤでもこのサイズになるんだな...。」と納得し、やや残念な気持ちになりつつも勉強になったなということでこのヒメドロの件については事態が収束したかに思われました。


再度事態が動いたのはその年の12月、「ホソヒメツヤとしていましたが、別種のようでしたのでお知らせします。」と交尾器の写真とともにHayashiさんからメールが届きました。なんと、交尾器内部の骨片の形状はホソヒメツヤと異なるとのことです。写真を見てみると確かに明確に骨片の形状が異なります。

検討を進めるために追加サンプリングが必要とのことで、1月に再びポイントを訪れましたが、夏にはあんなにもいたヒメドロが忽然と姿を消しており、結局1メスしか採集できず...。どうも暖かい時期に個体数が多く寒くなると減少するタイプのようです。

その後、Kamiteさんが4月にサンプリングしてくださり無事追加で検討していただけることになりました。追加サンプルの交尾器の骨片を追加で確認していただいたところやはり形状が異なるということで、未記載相当ではないかとご連絡をいただきました。その後は、ホソヒメツヤの地域変異の可能性を考慮して岐阜のホソヒメツヤについても交尾器を確認したいただきましたが、岐阜のホソヒメツヤと比較しても別物であろうということが確実となり、本格的に記載を進めていく流れとなりました。


今回の発見の発端は、自分がホソヒメツヤドロムシを見た経験が少なく、総じて小型個体しか見てこなかったことによって感じた違和感が原因でした。実際はやや大型な傾向はありそうですがホソヒメツヤのサイズに収まるということで、経験不足が功を奏したレアな例ですね汗


本種はタイプ産地以外では現在確認されておらず、生息環境も開発などの影響を受けやすそうな環境ですので、もしかしたらかなり危機的状況にあるかもしれません。一方で見た目は交尾器の形状含めてほぼホソヒメツヤなので、混同されており意外と広域に多数分布しているという可能性も十分に考えられます。いずれにしても知見が全く集まっていないのが現状ですので、ホソヒメツヤらしきヒメドロを採集した際には、ぜひ交尾器内部の骨片の様子を確認していただければと思います!


2023年10月14日土曜日

新属新種!!! ナギサミズカメムシ Nagisavelia hikarui Watanabe, Nakajima & Hayashi, 2023


日本の水生昆虫に仲間が増えました!!!!海岸性のミズカメムシ科です。
 
Watanabe, K., Nakajima, J., Hayashi, M. (2023) Nagisavelia hikarui, a new genus and species of Mesoveliinae (Hemiptera: Heteroptera: Mesoveliidae) inhabiting shingle beaches in Japan. Zootaxa, 5353:468-478.LINK
 
というわけでナギサミズカメムシ Nagisavelia hikarui が記載されました。なんと新種というだけではなく、新属として記載されました!!!驚きです.....!

記載論文著者のお一人であるオイカワ丸先生がナギサミズカメムシについてや記載までの経緯などをBLOGにわかりやすくまとめてくださっています。LINK

 そして大変僭越ながらわたくしNAGANO、発見者としてなんと献名していただきました。Nagisavelia hikarui hikaru NAGANO Hikaru hikaru です!!!!
いち生き物屋として献名していただくというのはずっと夢であったことなので感無量です...
 
さて、このナギサミズカメムシですが、名前の通り「渚(波打ち際)」の砂利中に生息しています。満潮時には水没しているところを干潮時に掘ることで採集できます。今までも採集されてはいましたが、同様に海岸性のウミミズカメムシという種がおり、海岸で採集されるミズカメムシ科はすべてこの1種だと考えられていたのです。この2種は色彩(ナギサ:明橙色・ウミ:暗橙色)、頭部の長さ(ナギサのほうが長い)、複眼の大きさ(ナギサのほうが圧倒的に小さい)などで区別することができます。
 


今回記載されたナギサミズカメムシについて、初めて自分が発見した時の顛末を記しておこうと思います。
20225月某日「ミミズハゼを掘りにいかないか」という誘いを受け、同期と先輩と3名で磯採集に赴きました。ミミズハゼは潮間帯の砂利を掘るという方法で採集するのが一般的です。というわけでスコップを使って一心不乱に砂利を掘っていました。すると2mmほどのオレンジ色の何かがちょこちょこっと掘った砂利の隙間から歩き出てきました。はじめは「なんだ?オレンジっぽいハエの類いか?」と思いましたが全く飛ぶ気配がないのでどうも違いそうです。では何なのか。「この挙動、もしかして半翅じゃないか!?」と気づきました。そこで隣にいた先輩に「すんません!こいつちょっと見張っててもらえますか!!?」と頼み大慌て荷物から吸虫管を取り出し、捕獲しました。ミミズハゼ掘りに吸虫管を持ってくるなど一般的にはあり得ないことですが、普段から採集には必ず吸虫管を携えていっていたのが功を奏しました。
家に持ち帰り調べてみると、どうもウミミズカメムシという海岸性のミズカメムシ科のようです。これは福岡県から記録がないということは聞き及んでいたので、「県未記録のやつじゃん!!!オイカワ丸先生に連絡だ!」ということで採集した旨を福岡県の水生昆虫のエキスパートであるオイカワ丸先生にお伝えし、後日一緒に採集することになりました。
採集当日、オイカワ丸先生を現場に案内し「この辺を掘ります!」とお伝えすると少々困惑している様子でした。なんでもウミミズカメムシは磯の淡水流入に依存しがちだというのです。その際も無事採集することができましたが、採集後しばらくしてオイカワ丸先生から、観察してみたがウミミズカメムシとはかなり違うようだという旨の連絡が届きました。以降の流れはオイカワ丸先生のBLOGに書いて頂いている通りです。
 
上から分かるように「発見者」として献名していただいているものの自分が見つけたときに新種だと気づいたわけでは全然ありません。
NAGANOってやつが新種じゃないかと指摘したんだな」と思っている方がいましたら全力で否定しておきます笑
自分は本当に「捕っただけ」なんですよね苦笑 違いに気づかれたオイカワ丸先生に感服です。
正直、見た時に別種だと気づけなかったのはかなり悔しいです。。。
超負け惜しみではありますが、先にウミミズカメムシを見た経験があれば絶対分かったのにと思いますね笑
 
 

ナギサミズカメムシを発見した環境ですが、砂の上に砂利の層が10-15cmほど堆積している場所です。そこで砂が露出するまで砂利の層を掘り進みじっと観察していると砂利の隙間から歩き出てきます。おそらく、もっと砂利の層が厚くても生息しているのではないかと思いますが、自分の知っている産地では砂利の層が厚くなるにつれて傾斜が急になるので、掘ったそばから砂利がどんどん崩れてきて穴が埋まっていき観察や採集がしづらいため、厚く砂利が堆積しているところでは観察できたことがありません。
また、この地点では冬場になると全く観察できなくなります。砂利の深い部分に潜っているのかなとなんとなく想像していますが詳細は不明です。
 
季節によって多少変化しますが、同所的にみられる生物として、ミミズハゼ属・ジムカデ類・橙色のワラジムシ類・ナギサスズ・マメアカイソガニ・Amphiporus属のヒモムシ(暫定)・Hemipodia属のチロリ(暫定)なんかを今までに確認しています。
 
 
 
ナギサミズカメムシは現在、福岡県・島根県・香川県から記録されています。ウミミズカメムシと混同されていたことにより、おそらくほかの県からも数多く採集されているだろうと想像しています。現にXやネットで「ウミミズカメムシ」と検索をかけるとしばしばナギサミズカメムシの画像が出てきます。お手元にウミミズカメムシの写真や標本がある方はぜひ今一度確認してみてください。また、基本的にウミミズカメムシとナギサミズカメムシは好む環境が異なる傾向にあります(同所的に得られる地点もあるようですが)。ウミミズカメムシは磯の淡水流入の水たまりやそのそばの石の下などを好むようですが、ナギサミズカメムシは前述したように波打ち際の砂利中を好むようです。波打ち際の砂利を掘っていてウミミズカメムシを採集したという経験をお持ちの方は高確率でナギサミズカメムシであると思われます。既記録の3県以外で採集されているという方は報文化していただけると日本全国における分布の傾向なども明らかになってくると思いますのでぜひお願いします!!!


2023年3月12日日曜日

自己紹介

 皆様、はじめまして。NAGANO Hikaruと申します。

岐阜生まれ・福岡在住の水辺の生き物をこよなく愛する湿地帯戦士です。 

主に陸水圏の生物が好きで、淡水魚・サンショウウオ・水生昆虫をメインに据えていますが、肉眼で判別できるレベルの陸水圏の生物の知識は幅広く付けていきたいと思っています。 最近はヒル・微小貝・ヒモムシなどといった淡水ベントスの沼にハマりつつあります。

ここでは主に遠征や印象深い採集の採集記をメインに投稿していきたいと思っています。 
普段はTwitterにて色々つぶやいていますので、気になる方はぜひフォローをお願いします!